Hello!#06
Neighbors
得意なことを突き詰め、
自分らしい表現にこだわり続ける
葉っぱ切り絵アーティスト
リトLito
1枚の葉っぱの中に、心温まるストーリーを
切り絵で描くアーティスト、リトさん。
発達障害を自覚し、一般的な会社員としての仕事に
なじめなかったというリトさんが、
自分らしい表現を見つけるまでのストーリーと、
そのこだわりを聞きました。
二者の共通点を探るうち、
「流行だけに惑わされず、アガットらしい表現に
こだわりつづけていいんだ」と
背中を押してもらえる対談となりました。
憧れのアーティストと初対面
アガット商品企画 大森庸恵(以下大森) 「Hello!Neighbors」というこの企画は今回で6回目なんですが、実は初めて私がゲストのリクエストをさせていただいたんです。3年くらい前にSNSでリトさんのことを知りまして、個人的にずっとリトさんのファンだったんです。
リトさん(以下リト) え! それは嬉しい。ありがとうございます。
大森 ちょうど一昨年くらいのアガットのテーマが「ナチュラリズム」で、自然モチーフのジュエリーを作っていたので、葉っぱを使って表現をされるリトさんと勝手に繋がりを感じていました。お仕事も何かご一緒できたらと思っていたのですが、なかなかきっかけがなくて。なので、本日、作品を目の前で見ることができて、感動しています……! 実際に実物を見ると、思っている以上に細かいんですね。
リト ありがとうございます。作品展に来られる方も、普段SNSなどで見る画像と印象が違うっておっしゃる方が多いです。普通に写真で撮ると、細かすぎてディテールが見えないので拡大して撮るのですが、そうすると印象が変わるんですよね。サイズ感と、手作りであることがわかるように、なるべく手を一緒に入れて撮るんですけど、この細かさを伝えるのはなかなか難しいですね。
大森 本当に繊細な表現でびっくりです。しかも、こんなに切り取っているのに、茎の部分を手で持って倒れないのはすごいですよね。
リト それがこだわっているところです。葉の下の部分を持って、倒れないように切り絵を作るのはなかなか技術がいります。太い葉脈を残すように切り取るようにしているんです。
大森 すごい! かわいいですね。使っている葉っぱは、どんなものを使われているんですか?
リト 普段はツタの葉を使っています。この緑色の葉っぱがツタで、茶色い方がサンゴジュっていうんですけど、大体この2種類を使います。ツタの葉の方がちょっと丸い葉っぱで、硬くて切りやすい。ある程度強度があって、手ごろなサイズの葉っぱがいいんです。小さすぎても切れないし、大きすぎると大変なので、探すと意外とないんですよね。葉っぱはたくさんあるんだけど、なんでもいいわけじゃない。
大森 葉っぱ以外の素材は試されたんですか?
リト 最初は普通の紙の切り絵もやってみたんです。切り絵を始めたきっかけが、たまたまプロの方の切り絵作品を見たことだったんですけど、僕は細かい作業が得意だから、似たようなことができるかもしれないって思って始めたんです。なので、最初は紙で何作品か作ったんですけど、普通の切り絵だといろいろな方がすでにやられているので、注目してもらうのが難しいなと思いまして。他の切り絵の種類を調べて、海外の方が葉っぱで作っていらっしゃるのを見つけて、これだ、と。それで、すぐに葉っぱを拾ってきてやり始め、今につながっています。
大森 切り絵を仕事にしようと思ったのはどういう経緯があったのでしょうか。
リト 大学を出て、10年近く会社勤めをしたんですが、失敗続きで怒られっぱなしで。学生時代はそんなに困ったことはなかったので「この仕事のできなさはいったい何なんだろう」とインターネットで検索した時に、初めて「発達障害」という言葉を知ったんです。「僕は絶対これだ!」と思って病院に行ったら診断が出て。
これをきっかけに「自分には会社員という働き方は向いていなかったのかも」と会社を辞めたんですが、生きるためには何かで稼がなきゃいけない。でも、30代になっていて、イチからスキルを身につける時間もお金もなくて。自分が持っているものだけでできることは何だろうとあれこれ試行錯誤するうちに、会社員時代は弱みだった「ひとつのことに集中すると周りが見えなくなるくらい没頭してしまう」「細かいことにこだわりだすととまらない」という性質を強みとして生かせる葉っぱ切り絵に辿り着いたんです。
大森 実は私も社会人になる時に美術の世界に進みたかったんですけど挫折したほうなんです。思うように絵が描けなくて、この道で食べていくのは厳しそうだなって思って。美術以外にも接客や服や身に着けるものが好きだったのでジュエリーに興味が湧いて、今この仕事をしているんです。
リト そうなんですね。僕も小学生の時は絵を描くのが好きだったんですが、中学生になって自分の絵がまわりに比べて幼稚だということに気がついて、挫折感を味わったことがあります。でも今になって、その子どもっぽい表現が僕の切り絵の個性になっていると思います。いい意味で子どもっぽくていいし、うまく、おしゃれに描こうとしなくていいのが切り絵のいいところですよね。
ひとつの葉っぱ、ひとつのジュエリーに紐づく物語
大森 本日はリトさんにもアガットのジュエリーを見てもらおうと思って、いくつか持ってきたんです。
まず植物繋がりのモチーフのものとか、リトさんの繊細な手作業に近いイメージの、透かしや掘りを施したデザインのものです。あとは、四大文明をモチーフにしたカメオです。
上:「K10シェル・オパールチャーム」¥48,400、
下:「K10シェル・カイヤナイトチャーム」¥51,700
リト すごい!四大文明とはマニアックですね。手仕事だから、掘りの感じがひとつずつ違いますね。
大森 葉っぱのレリーフも職人が掘っているので、厚みが違ったり、手仕事なので同じものはできないんです。カメオの埴輪の顔もちょっとずつ顔が違うので愛着が湧きますよね。
リト 彫られている穴が、僕が葉っぱに穴を開けるのと同じくらい細かい!
大森 リトさんの作品は本当に小さくて細かいですが、どうやって作られているんですか?
リト デザインナイフっていうナイフを使うんですけど、葉っぱの上から垂直に穴を開けるんです。刃先の部分をうまく使いながら葉っぱを手で回して、ミシンみたいに何回も刺すんです。
大森 穴を開けるんですか? 切り絵なので、シュッと切っているのかと思っていました。
リト それをやっちゃうと、余計なところまですぐ切れちゃうんですよ。なので、小さなドットを打つように穴を開けています。切り口を何回も表と裏から見返して、ずれていたり、欠けていたら、刃先で少しずつ修正して、なるべく滑らかな曲線になるように作っています。
大森 こんな細かいところまで小さな穴が開いていて、驚きです。
リト 見る方からしたらわからないくらい細かい部分もこだわっているので、もうこれは自己満足の領域ですね(笑)。
大森 描くモチーフなどはどのように決めているんですか?
リト ゼロから毎日オリジナルを考えるのは大変なので、例えば今日が何の日かを調べて、その記念日に基づいた作品を作ることもありますし、たまたまテレビで見た何かとか、子どもの頃に遊んだり出かけたりした思い出をテーマにして作ることもあります。でも、こちらが全然意図していないストーリーを見る方が自由に想像してくださるので、見る人ありきでストーリーが成り立っていると思っています。
なので、こちらの意図を押し付けたり、状況を説明してしまうタイトルにならないよう、実はいつもタイトルは作品ができあがってから、すごく考えてつけているんです。悩んで2時間くらいかかることもあります。
大森 そうだったのですね。リトさんの作品は、見たときにこちらも優しい気分になれるものが多いので、リトさんの中に伝えたいメッセージがあって、それを表現しているのかと思っていました。
リト ある程度、最初に設定などは決めたりするんですけど、見た人が、その人の納得できる解釈を見つけてもらえればそれでいいって思っています。
SNSのコメントを見ていると、例えば、僕は親子のつもりで作っても「友達同士でかわいい」とか、楽しい作品を作ったつもりだったけど「このキャラが悲しそうに見えた」とか、見る人それぞれが物語をつけてくれるんです。なので、自分で思っている以上に、思い入れを持ってくださっているんだって気づかされますね。
大森 ジュエリーも、こちらが思っている以上の思い入れを持ってくださる方が多いんですよ。
例えば、新生活に向けての気合を入れるために買うとか、すごく頑張った自分へのご褒美っていう方もいらっしゃるので面白いですよね。
身に着ける人はそれぞれの思いでひとつのジュエリーを選んでいるので、売る側としては何千個あるうちの一個だとしても、その人にとってはオンリーワンなんですよね。
リト そうですよね。そういう気づきがあると、作品を作る時にいい意味で意図を詰め込まなくていいんだって思えます。「このメッセージを見る人に届けなきゃ」みたいな思いで表現しなくていい、方向性をあんまり決めすぎなくていいんだって。
流行だけに惑わされず、自分にできることを信じて続ける
大森 リトさんのように、コンプレックスではなく自分のできること、得意なこと、合っていることに目を向けるって、実はなかなか難しいと思います。
リト そうですね。僕も、自分が発達障害だと知るまでは、苦手なことも努力でカバーしなきゃいけない、と思って無理していたんです。苦手なことから逃げちゃいけない、って。でも、発達障害の専門書を読んだ時に、自分には得意なことと苦手なことがはっきりあって、苦手なことを一生懸命カバーしようとしても、マイナスがようやくゼロになるだけだと気がついて。それより、自分の得意なことを突き詰められる仕事を見つけたほうがいい、と思えたんです。
なので、自分を知るっていうのはやっぱりすごく大事ですよね。
大森 そうですね。でも、そもそも自分が得意なことなんてない、合うものがわからないって方も多いですよね。
リト 得意なことって自分では当たり前にできちゃうから、自分で見つけられないことが多いんだと思います。まわりの人から見たら羨ましいことだとしても。僕も、一度集中するとものすごく集中できるタイプなのですが、まわりの人に言われて気がついたんです。
なので、自分の中だけで得意なものがわからないときは、まわりの人に気軽に聞いてみるっていうのがいいかもしれないですね。
大森さんはお客さんが着けたいジュエリーで悩んでいるとき、どのように接客されるんですか?
大森 ちょっと離れて見ながら、このあたりを見てるなって観察をしたりして、気になったのはどれですか、好きな色どれですか、ってイメージを聞き出したりします。同時に、こういうデザインが似合いそうだなって思うものも、勝手にイメージをして、お好きかどうか分かりませんが着けてみてほしいです、って提案したりもします。
リト そういう「似合うジュエリー」の探し方もいいですよね。人から似合うって言われたものをそのまま着ける。
大森 提案してもお客様の好みじゃないときもありますけどね。「好きじゃないですか?」「はい」って言われたり(笑)。でも、リトさんとお話ししていると、それでもいいんだなって思ってきました。好き嫌いが分かったってことですもんね。消去法で選べるようになったってこと。
リト そうですね。あとは、接客じゃなくても普段からもっとまわりにいる人をお互い褒め合ったりしたら、自分では気づかなかった自分の良さとか、意外に似合うものとか見つけられそうですよね。
大森 その話で思い浮かんだのですが、アガットがこの春に出しているコレクションの中で、指の形別のリングがあるんです。
お客さまの中で、自分の手が好きっていう人があまりいなくて、みんな何かしらコンプレックスがあるんですけど、その個性に合う指輪を作ったらもっと自分の手をみんな好きになってくれるかなっていうコンセプトで作ったシリーズなんです。自分では気づかなかった自分の手の良さに気づけるリング。
リト 面白いですね。コンプレックスって、一生ついて回るもんじゃないですか。だから嫌いでいたらもったいないですよね。どうやったらそれを好きになれるかっていうことを考えるのが大事だと思うんです。それに、できることがそんなになかったとしても、その狭い範囲の中だけでずっと何かをやり続けると、だんだんそれがその人の世界観になっていくんですよね。
例えば、顔を描く時に横顔しかうまく描けないけど、それを気にして苦手な正面の顔を練習するんじゃなくて、横顔ばかり描いてたっていいじゃないですか。人と無理に合わせなくていい、やり続けたらそれがあなたのいいところだって言ってもらえる日が来るっていうのをずっと信じて、僕もやっているんです。
大森 胸に来る言葉ですね。アガットのジュエリーは細やかさとか、アンティーク感を大事にしているので、実は今の世の中のシンプルなトレンドからはちょっとずれているんです。
ですが、リトさんのお話を聞いて、流行だけに流されず、“アガットらしさ”というものを大事にしてきたからこそ、今のお客さまに支持していただけているんだなと気がつきました。先輩たちから脈々と受け継がれたものは間違っていなかったし、これからも貫いていこうと思います。
それがアガットだよね、って言っていただける状態を作るのが今の私の使命なんだなって思います。
リト トレンドとの付き合い方って難しいですよね。僕も最初に葉っぱ切り絵を始めたときに同じことを悩みました。世の中のトレンドに合わせると楽で、オリジナルで作品を作っていくってすごく勇気がいることですよね。
大森 おっしゃる通りです。本日は、アガットらしいこだわりを貫いていいんだって、本当に勇気をもらいました。「アガットらしいものってなんだろう」っていうのは常に課題だったんですけど、ずっとこだわってきた細かさや世界観にそのままこだわり続けることがアガットらしさになるんだなって今は思えます。
最後に、もしリトさんも今回の対談で新しく発見したことがあれば教えてください。
リト 四大文明のコンセプトとか、そんなジュエリーが世の中にあるんだってびっくりしました。ジュエリーってキラキラしてて、可愛くて、美しいものというイメージが先行してたんですけど、お話を聞いてみて、こんなにこだわりがあるってことがわかって新鮮でした。やっぱり、ものづくりってジャンルは違えど、共通する部分もあるし、そのこだわりを聞くと見え方が変わりますよね。
大森 とっても嬉しいです。そして、ファンの私としては、ますます嬉しいことなのですが、アガットからもリトさんからも、偶然、同じようなコンセプトの新作を企画していたんですよね。このお話は、後日公開予定の動画配信で一緒に語りたいと思います!
リトさんとのクロストークの続きを、
アガットの公式Instagramで
5月下旬に動画で配信予定です。
お互いが同じコンセプトで企画した新作について
語り合うとともに、
リトさんに葉っぱ切り絵を
披露していただきました。
ぜひお楽しみに!
●本記事に掲載した商品の価格はすべて税込価格になります。
●掲載商品の在庫状況は日々変動しており、完売している可能性もございますのでご了承ください。