Hello!#03
Neighbors
小さな世界の中に広がる、大きなイマジネーション
現代華道家
大薗 彩芳Saihou Ozono
今年「草月いけばな展」新人賞を受賞し、
注目を集める
現代華道家・大薗彩芳さん。
大薗さんのアトリエへお伺いし、
アガットをイメージしたいけばなを即興でいけていただきながら、
ジュエリーといけばなに通じる美意識や、
この時代におけるそれぞれの存在意義について
語り合います。
ビジネスマンと華道家、二足の草鞋を履く
アガット商品企画 大森庸恵(以下大森) 大薗さんが華道の世界に入られたのは、社会人になってからなんですよね。
大薗彩芳(以下大薗) はい。修業していたころを含めると今年で10年になります。もともと母親が「草月流」という流派の師範でいけばな作家だったため、幼いころから華道の世界が身近にある環境で育ちました。ただあくまでも身近というだけで、いけばなを本格的に習うことはほとんどないまま一般企業に就職したんです。
大森 そこからなぜ、この世界に?
大薗 社会人になり、同世代の優秀な人たちの姿を目の当たりにして、それまで持っていた自信が打ち砕かれまして。そんなときに、挑戦したことがなかった華道の世界が目に入ったんです。当時、華道をたしなんでいるのは60〜70代の方がメインで、若手で男性の華道家が少なかったことにも惹かれました。23歳だった僕が華道を極めたらおもしろいのではと感じて、母に相談したんです。結果的に、ビジネスの世界もお花の世界も、アウトプットの期間は違えど、どちらもクリエイティブですし、インパクトを与えて間接的に世の中に貢献する、という意味で自分の中では1本の軸になっていますね。
大森 「HIGEDEBU FLOWERS(ヒゲデブ フラワーズ)」という屋号もキャッチーですよね。
大薗 印象に残るネーミングがいいなと考えたときに、自分の見た目を反映させてみようかと(笑)。
ジュエリーといけばなに共通するもの
大森 子どもの頃から身近だったからこそ、華道の楽しさだけではなく厳しさもご存知だったと思います。始めることに、不安はありませんでしたか?
大薗 昔から絵を描いたり手先を使うことが得意だったので、大好きだった創作活動の延長という感覚でした。母と同じ草月流を志すことになったんですが、結果的に草月流の自由度の高さのおかげで深みにはまりましたね。
大森 いろいろな流派があるんですね。
大薗 300以上あると言われています。草月流は90~100年ほど前に確立された比較的新しい流派で、華道の元祖である池坊(いけのぼう)とは真逆とも言える考え方を持っています。華道の歴史を重んじる池坊に対して、草月流は古典的な美のフォーマットにこだわりすぎない自由さを求めて生まれました。
とはいえ基礎を重んじていないわけではなく、基本をしっかりインプットした上で自分のスタイルを模索するのが草月流。自己表現を重視する現代アートに近いものがあります。
大森 ジュエリーの世界にも、留め方やカット方法など、はるか昔に確立された基礎がたくさんあります。
アガットも、それがベースにあってブランドが伝えたいメッセージやテーマを表現していますね。
歴史の中でジュエリー自体の位置付けや求められることも変わってくるため、企画やデザインにあたっては時代性を意識しています。
大薗 時代の流れの中で、どう変わってきたのでしょうか?
大森 もともとジュエリーは王族などが着ける特別な装飾品でしたが、現代は王族が身に着けていたような華美なものではなく、日常生活に馴染むデザインや着け心地が重視されるようになりましたね。なのでアガットのジュエリーは、長時間着けてストレスにならないという点も意識しています。
石が洋服に引っ掛からないように留め方を工夫し、内側を丸く加工して指当たりをなめらかにしたり。
大薗 なるほど。いろいろなジュエリーブランドがありますが、アガットさんのアイテムはアンティークな雰囲気と新しさが同居しているような、不思議な魅力を感じます。
大森 ありがとうございます。アガットは「レトロでありながらモダン、クラシックでありながらファッション」というデザインフィロソフィーを掲げていて。ブランドらしいアンティークなテイストを守りつつ、その時代やシーズンごとのテーマに合わせて使う素材やデザインを練っています。そしてただ石をきれいに見せるのではなく、いかにその時代のテーマやメッセージを込めるかが、私たちの考える美の基準の一つですね。
例えばシルバーのリングなら、ピカピカに磨いても美しいですが、そのときのテーマに合わせてあえて黒ずんだ加工を施して使い込んだ質感を出すこともあります。
大薗 「きれい=美しさ」というだけではない価値観はいけばなと似ていますね。いけばなはテーマや華道家が伝えたいメッセージを表現するものなので、ジュエリーと同じく美しさだけが正解じゃないんですよ。
大森 華道とジュエリーって、意外にも共通項がたくさんありますね。
壮大なテーマを凝縮した、小さなプロダクト
大森 アガットのジュエリーにブランドならではの個性があるように、華道家さんにもそれぞれの個性があると思いますが、大薗さんが思うご自身の持ち味はどんなところですか?
大薗 木の枝や石、鉄など、お花以外の異素材を多用しているのが一番の特徴ですね。ときには自転車やフォークなどの日用品を使うこともあります。
いけばなでは理想の位置に花を留める「花留め」が作品を形作るキーになるんですが、僕はテーマに合わせて日用品やワイヤーを花留めに使うことが多いんです。
そうすることで、表現の幅が広がってテーマを具現化しやすくなり、個性が生きたアーティスティックな作品になるんです。
大森 おもしろい。主役はお花だけではないんですね。
大薗 僕の作品では特に、花留めは大事なパーツですね。作品のイメージを作るときは一番初めにテーマにマッチする花留めはどんなものかを考えるくらい。そこからイメージを構築して、お花を決めるのは最後ですね。
大森 お花が最後なんですか?
大薗 お花は日や週によって手に入るものが結構変わるんですよ。なので、そのとき手に入った花材でどう作っていくかを考えるおもしろさがありますね。
大森 主役のお花を最後に決めるプロセスは、アガットのジュエリー作りとも似ています。珍しい石が手に入ったときは石ありきで作ることもありますが、大半は、まずテーマがあって、それを表現するにはどんな石がいいかという順で決めていくんです。
大薗 最近では、どんなテーマがありましたか?
大森 今期(2022年)は「ロンドンアンティークス」というテーマを掲げています。
大薗 ロンドンですか。
大森 ブランドが誕生したときに、ロンドンのアンティークジュエリーを現代風にアレンジしたものをリリースしたら大ヒットして。そこからアガットらしいテイストが確立されていった背景があるんです。2022年はコロナ禍で環境が大きく変わった翌年というのもあり、「もう一度原点に帰って私らしさを見つめてみませんか?」というメッセージを込めて、原点回帰するテーマになったんです。
大薗 その壮大な世界観が小さなジュエリーに込められているんですね。
大森 はい。大薗さんとお話しながら、こうした小さなプロダクトにテーマや世界観が凝縮しているのも、いけばなとジュエリーの共通項だと感じます。
大薗 そうですね。いけばなの基礎的なフォーマットではお花をあえて中心には置かないんですが、それにも理由があるんです。お花の重心を真ん中からずらすと、水を張った土台の器が見えますよね。その水面を見せることで無限に広がる海や湖を表現するのがいけばななんです。見てくださる方の感覚や感性で作品そのもの以上の空間を感じ取っていただくという。
大森 いけばなで表現できないものはないのかも。
大薗 そうなんです、表現の幅は無限大。
大薗流に自由にいける、アガットの世界
大森 もし大薗さんがアガットのジュエリーをイメージしてお花をいけたら、どんな作品になるのか見てみたいです。
大薗 おもしろそうですね、即興で作ってみますか。小さな世界に壮大なテーマやメッセージが凝縮しているという共通点をもとに、小さなミニアチュールというスタイルで表現したらおもしろいかもしれません。
大薗 花留めには、アガットさんのゴールドとシルバーのリングを。その上から、ヴィンテージカラーの枝を組み上げました。
大森 素敵!アガットらしいレトロなお花の色合いにも惹かれます。
大薗 お花は、天然石のように、自然ならではの繊細なグラデーションがかかっているものを選びました。今日見せていただいたジュエリーのなかでも、オパールとラブラドライトを使ったアイテムが印象深かったので、それらの造形美から受けたインスピレーションとアガットさんらしいヴィンテージ感をまとめています。
大森 まさにアガットの世界観が凝縮されていて、感動しています!!
ジュエリーといけばなが私たちにくれるもの
大森 今日お見せしたジュエリーのなかでも、オパールとラブラドライトが印象的だったとおっしゃっていましたよね。
大薗 はい。角度によって色の味わいが変わる、自然の美しさに見入ってしまいました。オパールとラブラドライトには、花や植物に似た、人工的には出せない魅力があるという直感が働いて。
大森 この2つの石は特に、同じアイテムでも一つ一つ雰囲気が違ってくるのが魅力です。
今回は大薗さんが惹かれた、アマゾナイトとラブラドライトの上にオパールを添えたチャームを合わせた。ひねりが入った太めのチェーンは、チャームを通しても、単品でネックレスとしても使えるアイテム。
「K18オパールリング」¥88,000、「K10ラブラドライトチャーム」¥28,600、「K10チェーンネックレス」¥66,000
大薗 すべて質感が違うから、どれも世界に一つ。自分だけのお守りのようで素敵ですし、気持ちを高めてくれますよね。お気に入りのブレスレットやリングがふと目に入って、今日も頑張ろう!とテンションが上がる瞬間って誰しもが体験したことがあるはず。
いけばなも、それと似た感覚を持っていただけると思うんです。鑑賞してパワーを蓄えていただけるものなのではないかと。
大森 分かります。ジュエリーやお花って、そういう意味では、なくてはならない存在かもしれませんね。いつかは枯れてしまう時間に限りがあるお花と、半永久的に残るジュエリー、輝く時間に違いはあれど、人の心に響きを与えるところは一緒。どちらも目に入ったときにパワーや癒やしを与えてくれる何かがありますよね。
大薗 変化が激しい時代だからこそ、一見なくても生きていけるようなものの力が必要だと感じます。さらに言えば、見せていただいた草花をモチーフにしたリングのように、時間に限りがある自然物を形にできるのもジュエリーのよさだなと。お花はいつか枯れてしまいますが、ジュエリーという形なら半永久的にそばに置いておけますしね。
大森 草花をモチーフにしたジュエリーは太古から作られていました。もしかすると、昔の人も植物の癒やしやパワーを求めて、ずっと身に着けておけるジュエリーのデザインに落とし込んだのかなとも思います。
大薗 この葉っぱが連なっているデザインとか、すごく生き生きしていて自然のパワーを感じます。
大森 個人的には、着けていると植物や花を愛でる幸せと同じような感覚があるアイテムです。ずっとそばに置いておける、枯れない植物というか。考えてみると、今日いけばなで表現していただいたのは、植物からイメージされたこのジュエリーと対になるような発想ですね。とても新鮮でしたし、大薗さんの表現力に心を打たれました。
大薗 僕もジュエリーをテーマにいけたのは初めてだったので、すごく楽しかったです。ジュエリーとお花の共通項をここまで見出せたのは、大森さんとのお話があってこそでした。これからもアガットさんがどんなテーマを表現されていくかとても楽しみです。
大森 最後に伺わせてください。今年草月流新人賞も受賞されて、ますます華道の世界で活躍されていくかと思います。これから大薗さんが目指す現代の華道家とは、どんな姿ですか?
大薗 アガットさんと同じく、伝統に敬意をはらいながら人の心を揺さぶるいけばなを届けていきたいですし、30代の僕にしか伝えられないメッセージや表現方法を模索していけたら。そして僕の活動が同世代のみなさんに華道の世界に興味を持っていただけるきっかけになれば嬉しいです。
大薗彩芳さんとのクロストークの続きを、
アガットの公式Instagramと
大薗彩芳さんのInstagramの2つのアカウントで
12/8に配信予定です。
いけばなのライブパフォーマンスを披露する予定ですのでお楽しみに!
●本記事に掲載した商品の価格はすべて税込価格になります。
●掲載商品の在庫状況は日々変動しており、完売している可能性もございますのでご了承ください。