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季節や自然の情景をカタチにする、デザインの妙
「タケノとおはぎ」オーナー
小川 寛貴Hiroki Ogawa
美しいアートワークのような“おはぎ”が話題の
「タケノとおはぎ」のオーナー・小川寛貴さん。
おはぎの概念を覆す斬新なデコレーションの秘密とは。
その誕生した背景やインスピレーションの源を探ると、
アガットのジュエリーデザインにも通じる
意外な共通項が見つかりました。
デリカテッセンからおはぎ専門店へ
アガット商品企画 大森庸恵(以下大森) 最初にInstagramで「タケノとおはぎ」のおはぎを見た時の衝撃は忘れられません。「洋菓子みたい!」とびっくりしたんです。しかも男性がつくられていると知って二重の驚きでした。
小川寛貴(以下小川) ありがとうございます。確かによく驚かれますね(笑)。お話をいただいたときはジュエリーについて全く詳しくないので正直なところ少し戸惑いました。けれど弟の結婚指輪がアガットさんだったと分かり、これはご縁だなと思いまして。
大森 素敵なご縁で繋いでいただいたようで光栄です。「タケノとおはぎ」のおはぎは個性があって、見えない部分にもこだわりを持ってものづくりをされていらっしゃる印象があります。
アガットもデザインのこだわりが強くて、細かい部分でも「アガットらしさ」を追求しているブランドなんです。そういった部分で共感できるのではないかと思って、お話しを伺うのを楽しみにしていました。まず小川さんはどういった経緯で、おはぎ専門店を始められたんですか?
小川 元々はスペインバルで働いていて、2010年から桜新町で、「町のお惣菜屋」のようなスタイルのデリカテッセンを始めました。料理の勉強をしにヨーロッパやN.Y.をまわっていた時に、お惣菜が好きでお店巡りをしていたんですが、帰国してみると、当時の日本にはお惣菜といえばデパ地下かチェーン店くらいしかなくて。食べたり飲んだりしながらお惣菜がつまめるようなお店がやりたくて、ワインを飲めるスペースも併設しました。
大森 最初はお惣菜屋からのスタートだったんですね。
小川 日本ではあまり馴染みのないスタイルだったので数年はかかりましたが、ワイン好きの人たちが集まってくれる店になりました。けれどデリカテッセンって取り扱う食料品の種類が多くて、それに伴い業務も多種多様なんですよ。
お惣菜もあればスイーツも売るし、パンもつくればワインや輸入食材も売ったりと、知識は広がるけれど、どうしても深く掘り下げることが出来なかった。働いているうちにだんだんと、ひとつのものに特化したお店をつくりたいという想いにシフトしていきました。
大森 そこからなぜおはぎの専門店にシフトすることになったのですか?
小川 実は祖母の影響がありまして……。僕は小さい頃あんこが苦手でしたが、祖母のつくるおはぎだけは大好きでよく食べていたんです。昔はお砂糖が高価であまり使えなかったからだと思うのですが、祖母のおはぎは全然甘くなくて、おかずみたいな感覚で食べていました。
大森 私も祖母がつくる甘くないおはぎがとても好きだったので分かります。
小川 祖母が90歳になってひとりでおはぎをつくることが難しくなったときに、祖母の子供たちは僕の母を含めて4人とも誰も一緒におはぎをつくったことがないと知ったんです。祖母の味がなくなるのが嫌だったので、母と僕とでつくり方を教わることにしました。その時に「ひとつのものに特化するならこういうのがいいな」と思い、おはぎ専門店にしました。だから「タケノとおはぎ」の“タケノ”は祖母の名前なんです。
大森 お店ができた背景にはそんな素敵なストーリーがあったんですね。
和菓子に興味がない人にも届く、新しいデザイン
大森 「タケノとおはぎ」のおはぎは、おはぎの概念を覆すような斬新な見た目が特徴ですよね。今回ご用意していただいたこのおはぎも、まるで本物のバラのように綺麗で、見ているだけでうっとりしてしまいます。素材は何でできているんですか?
小川 白いんげん豆からつくる白あんを使っています。お惣菜屋をしていた頃から白いんげん豆はよく使っていた食材で、ナッツやドライフルーツ、スパイスとも相性が良いので、このおはぎ以外にも変わり種系のおはぎは白あんがベースになっています。
大森 お惣菜屋をされていたからこそのアイデアだったんですね。このおはぎ、最初は洋梨の味だと思って食べていたら、次はアプリコットの風味がしてきて、想像以上に奥深い味わいにびっくりしました。小川さんのお話を伺って、シンプルなつぶあんとこしあんもぜひ食べてみたいと思いました。
小川 嬉しいです。僕が一番つくりたかったのは祖母がつくってくれていたつぶあんとこしあんのオーソドックスなおはぎだったんですが、それだけではうちのような老舗でもないおはぎ専門店が選ばれるわけがない。
そこで、和菓子に興味がない方々にも手にとっていただけるにはどうしたら良いか?と考えて生まれたのが、「絞り」のデザインでした。生クリームなどに使われる「絞り」(口金)を使って花などをデザインしているのですが、メニュー全部を派手なデザインにしてしまうと、僕が大切にしていることが伝わらなくなってしまう。
そこでつぶあんとこしあんのオーソドックスなものと、洋の要素が強い斬新なもの、さらにその中間のものも用意して、全部で伝統と斬新さのバランスをとっています。
大森 こうやってわっぱに詰められていると、色どりが本当に綺麗ですよね。聞いたところによるとすべて無着色だとか。この美しい色をどうやって自然のものでつくり出しているんですか?
小川 もともと料理をやっていたこともあり、人工的な着色料は使わないことが僕の中では自然なことで、野菜や果物のピューレやパウダーなどで色をつくっています。例えばトウモロコシの黄色とビーツの赤紫を混ぜると綺麗なオレンジ色になるんですが、味も色合いから想像できる味でないとお客様が戸惑ってしまうので、組み合わせも重視しています。その辺は、着色料と違って難しいところですね。
アガットさんのジュエリーも色のこだわりが強そうですよね?
大森 そうですね。天然石を多く使用するブランドなので、「色」に関しては特にこだわりがあります。例えば、黒い石のシリーズは、樹脂の化石である「アンバー(琥珀)」と、木の化石である「ジェット」をパウダー状にして混ぜて固めたもので、こっくりとした深みのある黒が特徴です。比較的新しい技術なので、製品化されているものはまだ少ないと思います。
また、よりたくさんの方に日常でつけていただけるように、天然石同士を薄く重ねて新しい色を表現しています。例えば、こちらの商品なんですが、オパールそのままだと日常で使うには華やか過ぎる印象がありますが、上からスモーキークォーツという茶色の水晶を重ねることで色に渋みが出て、男性でもつけていただきやすくなります。
小川 横から見ると色の重なりが見えますね!石でもそんな色の表現ができるとは初めて知りました。
365日、一日一日にデザインがある
小川 おはぎのデザインは、食材からアイデアが生まれるパターンと、季節や自然の情景からイメージすることもあるのですが、ジュエリーの世界でもそういったことはあるのでしょうか?
大森 はい、アガットは天然石による色の表現ができるので「四季」を強く意識しています。春らしい色合いや花のモチーフ、夏は涼しげなデザインやリゾートを想起させるようなものがあったり、私自身がそういった魅力に惹かれて入社したこともあり、アガットのこだわりとして今後も大切にしていきたいところです。
小川 ジュエリーは1年中同じものをつけ続けるイメージがあったので、季節によってデザインも変化することには驚きです。和菓子と「四季」は切ってもきれない関係なので、意外な共通点を知りました。
大森 もちろん安いものではないので通年つけてもらえるデザインなのですが、季節を意識することで気分が上がったりするので、洋服のようにジュエリーを楽しんでもらえたらいいなと思っています。
また、元々アガットのコンセプトとして、「イギリスのヴィクトリア時代のジュエリーのエッセンスを取り入れる」というのがあるんです。ヴィクトリア時代には「ナチュラリズム」といって動植物をモチーフにしたジュエリーが愛されていて、その要素はアガットのディテールに散りばめられています。
特にコロナ禍で外出が制限された2021年は、気軽に旅行などに行けない分、ジュエリーで「自然」を表現したいと考えました。そこで1年間のテーマを「ナチュラリズム」に決定して、春の花や冬の森をイメージしたコレクションを発表しました。
小川さんのおはぎも自然の情景やお花をイメージされたものが多いですが、つくる時はどんなことを意識されていますか?
上:「シルバーリング」(¥17,600)下:「K10シャンパンホワイトゴールドリング」(¥77,000)
小川 元々和菓子には花などを表現したものがありますが、デフォルメされたデザインが主流です。その中で「目に留めてもらうのにはどうしたら良いか」と考え、写実的な表現を思いついたんです。よりリアル感を出すために本物の花を見ながらつくったり、手に入らない場合は写真を見ながらつくります。
口金をトンカチなどで叩いて変形させて、花びらの繊細なギザギザを絞り出したり、絞る時の角度で花びらの厚みや薄さを変えています。こだわりとしては「同じものをつくらない」ということ。自然界に咲く花がすべて満開ではないですよね。咲き始めや散り始めの方が「生きている」感じが伝わりやすいと思うんです。自然のものだからこそ全部が同じ花びらにならないようにしたいと考えていて、スタッフにも「一つひとつ違う表情でいい」ということを伝えています。
大森 そんな細かなところにもこだわりがあったんですね。手づくりならではの魅力を感じました。小川さんのおはぎは色使いやフォルムが斬新ですが、その中で伝統的な「和」を意識されていることはありますか?
小川 やはり「四季」でしょうか。和菓子の中には季節の行事と深く結びついているものもあり、それぞれの季節に代表的な和菓子があります。おはぎというひとつの和菓子の中でも、四季折々の変化をデザインや味で表現したいと思っています。
ちなみに四季つながりで……おはぎは季節によって呼び名が違うというのはご存知ですか?
大森 4つも呼び名があるんですか?春の「おはぎ」と秋の「ぼたもち」しか分からないです。
小川 夏は「夜船」、冬は「北窓」というんです。おはぎはお餅と違って臼でつかないので「つき(搗き)知らず」となり、夜は暗くて波止場にいつ船が着いたか分からない=「着き知らず」とかけて「夜船」と呼ばれるようになったそうです。
それから派生して、冬は北の窓に月が見えないことから「月知らず」=「北窓」というわけです。こういった日本ならではの言葉遊びなども好きで、創造力を刺激されます。僕がつくっているオーダーメイドのおはぎ「春まど」は「“春”はぼたもち夏はよふね秋はおはぎで冬きた“まど”」という言葉からとったんですよ。
大森 そこにも「和」の遊び心が隠されていたなんて、興味深いお話です。小川さんのおはぎはネーミングも素敵ですが、いろいろなところから刺激を受けていらっしゃるんですね。では最後に小川さんにとって「デザイン」とは何でしょうか?
小川 シンプルにいったら「365日」です。朝から夜まで、休みの日に出かけた先でも、歯を磨くのと同じようにいつもおはぎのことを考えているという意味もありますが、365日の中で1日も同じ日というものはないんです。先ほど「四季」といいましたが、4つだけではなく気温や天候、咲く花や見える景色は毎日変わります。その季節の変化、一日一日をおはぎのデザインに反映しています。
例えば桜新町の店の前の通りは春に八重桜が咲きますが、「八重桜のおはぎ」は店の前の桜が咲き始めた日につくり始めて、桜が散ったら販売終了します。「春の時期」ではなく、咲いたら始めて散ったらやめる、そんな季節の移り変わりの一瞬一瞬をお客さまにも感じてもらいたくておはぎづくりをしています。
大森 小川さんにとって「デザイン」は特別なものではなくて、日常を切り取っている感覚なのですね。週に一度新作を発表されているそうですが、これからも美しくて美味しいおはぎを楽しみにしています。
agete meets
Hiroki Ogawa
今回のゲストに共鳴する
アガットのジュエリーをご紹介。
小川寛貴さんとのクロストークの続きを、
アガットの公式Instagramとタケノとおはぎの
Instagramの2つのアカウントで11月中旬に配信予定です。
アガットをイメージしたスペシャルなおはぎも
登場する予定ですのでお楽しみに!
スペインバルや洋風のお惣菜屋を経て2016年桜新町におはぎ専門店「タケノとおはぎ」を開業。お店のInstagramで配信される色とりどりのおはぎが話題となり、連日行列ができる人気店に。2018年には学芸大学に新店舗をオープン。祖母の味を受け継いだ甘さ控えめなおはぎは、女性だけでなく男性にもリピーターが多い。
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